戦前の競馬を知る人は、最強馬がクリフジであると主張する人が多い。それもそのは
ず、戦績は11戦全勝。今も昔もこの記録の上を行く中央の馬は存在しない。ダービー・
オークス・菊花賞の勝ち鞍は、彼女が牝馬であることを考えると、3冠牝馬の更に上の
カテゴリに位置されているといっても過言ではない。戦中だったという時代背景もある
が、デビューして一ヶ月の間もなくダービーを制するという、とんでもない離れ業をも
やってのけている。
着差も、後続を大きく突き放すレースがほとんどで、ダービーでは出遅れたものの、レ
コードを1秒6縮める独走。前田騎手は「何も音がしなくなったので、心配になった。」
と、直線で後ろばかり振り返っていたという。戦争で牡馬たちが次々と戦場に駆り出さ
れという事情があるが、この年代の前後と比較しても、ダービーでこれだけ速いタイム
を出されては、ただライバルが弱かっただけという言い訳は通用しそうにない。
彼女も大柄な馬体で、推定500キロは軽く超えていたようだ。その雄大な体からは
二冠牝馬も誕生。しかし、他に目立つ馬が生まれなかったように思えるのは、現役時
代の彼女の走りがあまりにも凄すぎたからなのか。 |