名コピー・2

京都の坂は、
ゆっくり登ってゆっくり下る
 京都コースの、特に外回りコースは、他の中央3場と比べ特異である。東京・中山・阪神は
最後の直線に急な上り坂が用意されており、ここで馬がふるいに掛けられ、底力に欠ける馬
は振り落とされる。京都の直線は概ね平坦である。だが、3コーナーに高低さ4m近い急坂が
待ち構えている。登りを急ぐと体力を使うのはもちろん、下りも勢いに任せて加速しすぎると、
これも思った以上に体力を消耗し、長い直線の最後にバテてしまうことはよくある。

 この格言を無視して勝った有名な馬と言えば、三冠がかかった1983年菊花賞での追い込
み馬・ミスターシービー。2コーナー手前でシンガリに位置していたが、坂の手前で一気に加
速、坂の頂上に達した時は好位に上げ、下りで更に加速し先頭に立ってしまった。さすがに、
最後に詰められはしたが、無事に三冠を達成し、吉永騎手以下、関係者の胸を撫で下ろさせ
た。

 1995年の天皇賞では、かつてミホノブルボンやメジロマックイーンを負かした時の勢いを失
っていたライスシャワーが登場。鞍上的場騎手は、馬のスタミナを信じ、敢えて坂の頂上で仕
掛けて早め先頭に立った。最後に大外からハナ差まで詰められたが、辛くも勝利。格言の逆
手を取った形で、それは名騎乗になった。

秋の府中には魔物がいる
 1987年のニッポーテイオー以来、秋の天皇賞では長く1番人気の馬が栄光を掴めなかっ
た。マイラーや、ステイヤーでも対応できる距離2000mという点や、スタート直後、すぐにコー
ナーに入るという特殊なコース形態が騎手の頭を悩ませた結果、産み出された産物だったの
かもしれない。ジャパンカップの1番人気連敗はそれ以上であったが、このコピーを秋の天皇
賞について強く言うようになったのは、あまりに印象的な場面が続いたからであろう。

 日本全国を熱狂させたアイドル・オグリキャップの3年連続敗退。メジロマックイーン6馬身
差1位入線劇から一転、走路妨害による最下位降着。超ハイペースに巻き込まれたトウカイ
テイオーの大敗北。一度も連対を外したことの無かったビワハヤヒデと、故障明け三冠馬ナリ
タブライアンの兄弟惨敗。サクラローレルの脚を余した失敗。それから圧倒的な逃げを披露し
ながらも、3コーナーから天国へ旅立ってしまったサイレンススズカ。枠入り不良で大幅に出
走時間を遅らせたセイウンスカイ…。1番人気の馬に生じる不幸は珍しく多かった。

 2000年、20世紀最後の年の単勝1番人気は、年間無敗という実績から考えるとちょっとオッ
ズがつき過ぎた2.5倍の馬。しかし彼は道悪を苦にせず見事に完勝し、その悪しきジンクスを
13年ぶりに断ち切った。さらに併せてJCの一番人気連敗も15年ぶりにストップ。この年府中
の「魔物」は、世界の賞金王・テイエムオペラオーによって成敗された。

芦毛に名馬なし
 そもそも競馬というのは、軍馬育成として行われたスポーツであり、優秀な軍馬を選定、あ
るいは優秀な軍用繁殖馬を選定するのが起源である。そのため、戦場で目立ってしまう芦毛
馬が忌み嫌われたのは当然だ。ところが、芦毛の馬も体に墨を塗って色をつければ問題ない
だろう、ということで、1928年から競馬に出ることが認められる。

 芦毛馬は気性が悪いという迷信もあった。しかも、芦毛馬は芦毛馬からしか産まれないとい
うのも、かなり昔から知られていたため、競馬に出られない時代から芦毛の生産は遅れ、日
本競馬の初期には芦毛馬自体のシェアが低かったことが推定できる。絶対数が少ないので
は、強い馬もなかなか出てこないに決まっている。

 オルコックアラビアンという馬を共通の始祖に持ち、「悪し毛」と言われて嫌われてきたこの
集団も、時を経るに従って強い馬が出てくるようになった。1989年(平成元年)のダービーで
はウィナーズサークルが優勝し、初の芦毛ダービー馬に。それからタマモクロス・オグリキャッ
プ・メジロマックイーン・ビワハヤヒデ・セイウンスカイ・クロフネ・アドマイヤコジーン・ヒシミラク
ルなどの名傑が続々誕生。この言葉は、もはや昭和以前の死語と化している。

四白流星名馬なし
四白の馬が生まれたら見知らぬ人にくれてや
れ。
三白なら走らせてみろ。
二白ならまあまあ。
一白ならどんな事があっても手放すな!
 4本の脚先全てに白斑があり、額に見事な模様(流星)がある馬は見ていて綺麗で個性的
である。しかしそんな馬は当然少なく珍しい。そして見た目が派手なため、軍用馬としては嫌
われてしまう。結局は、昔の芦毛馬と同じような扱いをされ、走る馬としては良く思われなかっ
た。そんな中で生まれた言葉であり、あまり確かな根拠は無い。下の言葉はイギリスの民謡
からの言葉であり、四白流星は、海外でも嫌われていることがわかる。

 四白流星で有名な馬としては、初代顕彰馬クモハタ・天皇賞馬タイテエム・桜花賞馬ファイト
ガリバー・皐月賞馬イシノサンデー・天皇賞馬ヤエノムテキなど。調べてみて、結構強い馬が
いたのには驚いた。つまりは、これも死語になって来ているということ。トウショウファルコは、
さらに尾花栗毛でもあり、東京競馬場の誘導馬を務めている。そして何といっても、ダービー
馬メリーナイス。実在の馬・レースを扱った映画「優駿」に出演した。

魔の桜花賞ペース
 阪神1600mは、1コーナーポケットからスタートし、すぐにコーナーに入る特徴的なコース。
外枠よりの馬はすぐに内に入るか、早めに前に出るかしないと、常に外々を回らされ距離をロ
スしてしまう。また内枠の馬も、外から殺到してくるので、アタフタすると内に閉じ込められてし
まう。そのため、テンが速くなり、レースの流れ自体も速くなると言う。

 ただ、ここ10年くらいは、騎手が気をつけているのかどうなのか、あまり早過ぎる展開には
なっていない。また、2007年から向こう正面のストレートコーススタートになるので、いずれこ
の言葉も聞かれなくなってくるだろう。


前へ
次へ

コーナー
トップへ
トップへ