名コピー・3(ダービー編)

ダービー馬はダービー馬から
 ブラッドスポーツとも呼ばれる競馬は、強い馬は強い親から生まれるのが常識。競馬最高
峰のダービーを勝った馬は、優先的に種付けできるほど人気になり、それによって子孫がま
たダービーを勝つ可能性が高くなる。

 より良い血統を海外から求め続けた日本競馬でも、ダービー親子制覇は5例ある。カブト
ヤマ→マツミドリ、ミナミホマレ→ゴールデンウェーブ、ミナミホマレ→ダイゴホマレ、シンボリ
ルドルフ→トウカイテイオー。特にルドルフ・テイオー親子は共に無敗でのダービー制覇。最
近ではタニノギムレット→ウオッカ。父娘のダービー制覇は初めての事だった。

 更には、フサイチコンコルド・スペシャルウィーク・ジャングルポケットなどが次々と良い仔を
出し、近年のダービー馬も良血揃い。6例目の親子制覇が期待される。

「あれはダービーをとるために生まれてきた幻の馬だ。」
(作家・吉屋信子氏)
 ダービー馬トキノミノル急死後、毎日新聞に寄せられた文の一部である。

 元々パーフェクトという名を与えられていたトキノミノルは、その旧名通り、生涯を10戦10勝
という成績で飾った。そしてその最後の勝ち鞍となったダービーのわずか17日後に彼は死
んだ。病名は破傷風。おそらくダービー出走時には、トキノミノルの体にこの病気はすでに
潜伏していたはずだ。ダービー優勝時に、馬場に観客が雪崩れ込み、みんなと一緒に無敗
のダービー馬誕生を祝ったその情景は、競馬の世界に間違いなく新しい風を吹き込んだも
のだった。その感動劇から一転した悲劇だっただけに、余計そう思えたのだろう。

ダービー馬のオーナーになるのは、一国の宰相になるより難しい
ダービー馬は金で買えない
 ダービーは一年に一回のみ行われ、一年に一人しかダービーオーナーになれない。当然
生涯でダービー馬の馬主になるのが難しいのは、当たり前の話。

 昭和40年、馬主の上田清次郎氏は、何が何でもダービーのタイトルが獲りたくて、皐月賞
2着馬のダイコータを金銭トレードで獲得。1番人気にも推され、ダービー馬を金で買うの
か、と批判されたが、結局レースでは逃げ馬を捕らえられずに2着に敗退し、栄光を掴み取
ることはできなかった。ただし、ダイコータは菊花賞を勝利し、ダービーでの無念を晴らした。

ダービーポジション
 過去、ダービーは最多32枠の超多頭数で行われ、そのレースは非常に混沌としたものに
なった。後ろから競馬する馬にとっては、最後の直線で馬込みをさばくのに苦労し、力を発
揮できない場合が出てきてしまう。従って、第1コーナーを回るときに、前からおよそ10頭以
内の位置取りをダービーポジションと呼び、この位置にいないと、ダービーは勝てないと言
われてきた。

 これを無視して勝った馬と言えば、追い込み三冠馬ミスターシービーぐらいだったが、最近
では、フルゲートは18頭に設定。これにより、位置順の有利不利は少なくなった。元来、直
線が長く広く、力の差がはっきりと出やすい東京競馬場。ウイニングチケット・スペシャルウィ
ーク・アドマイヤベガ・アグネスフライト・タニノギムレット・キングカメハメハ・ディープインパク
トなど、スタートしてから比較的後方を進む馬たちでのダービー制覇が目立つようになり、現
在でのダービーポジションは後方位置と言ってよいのかもしれない。

「勝った、勝った! 俺の馬だ!!」
(石田健一厩務員)
 昭和44年のダービーは、馬場が荒れに荒れ、まるで芝コースの内半分にダートコースが
出現したかのような極悪の不良馬場。一番人気タカツバキが序盤に落馬するという、大波
乱の展開になった。そんな中、逃げたのはダイシンボルガード。最後はミノルなどに迫られ
るも差が詰まらず、残り100m付近で大勢は決した。

 そこへ突然馬場に乱入者が! その正体はダイシンボルガードの厩務員・石田氏だった。
夢にまで見たダービー優勝。嬉しさのあまり、係員の制止を振り切ってコースに飛び出し、
「俺の馬が勝った〜!!」と叫びながら馬と併走、その姿を見て場内のファンは心を打たれ
拍手が起こったと言うが、その後主催者からきつく灸を据えられたのは言うまでもない。

「ハイセイコーも四ツ足なら、俺の馬も四ツ足だぞ。」
(嶋田功騎手)
 競馬界最大のアイドルハイセイコーは、1973年の皐月賞を圧勝し、さらにダービー前哨戦
のNHK杯も勝って、全く死角がなくなってしまった。圧倒的1番人気に祭り上げらる中、同じ
くダービーに出走する9番人気タケホープに騎乗した嶋田騎手が放った言葉。

 最後の直線。ハイセイコーは、これからというところで伸び脚が鈍り、観客の応援が見る見
るうちに悲鳴に変わっていく。その先で一着ゴールインしたのがタケホープ。彼は日本全国
のアイドルを3着に従えて大金星を獲得した。やはり、競馬は競馬。サラブレット同士なら何
が起こるわからない。それ以降タケホープはハイセイコーの最大のライバルとなり、菊花賞
でもハナ差の大接戦を演じここでも好敵手を負かした。


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